かたちづくり

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「池袋物理学勉強会(1)」の復習 #ikeph

池袋物理学勉強会(池袋物理学勉強会(1) - connpass)の復習です。第一回の開催からだいぶ日が経ったので今更感ありますが。この勉強会は講師の方が多大な労力を割いて下さっているので、心より感謝するとともに、ブログでも書いて微力ながら勉強会を盛り上げていこうなどと思った次第。

ラグランジュ方程式 \dot{q}の捉え方

下記にラグランジュ方程式を示します。
 {\displaystyle
\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial L}{\partial \dot{\vec{q}}}\right)-\frac{\partial L}{\partial \vec{q}}=\vec{0}
}
この式の中に  \dot{\vec{q}} による偏微分が現れています。この偏微分についてどう考えればよいのか、勉強会の最後に質問があったように記憶しています。私も疑問に思った箇所だったので質問者の方には共感しました。
疑問の内容はこうです。まず  \dot{\vec{q}} というのは一般化座標  \vec{q} の時間微分です。つまり  \dot{\vec{q}} \vec{q} に従属する概念のはずです。しかしラグランジュ方程式では  \dot{\vec{q}} があたかも独立変数であるかのように扱って偏微分を行っています。これはどのように捉えればよいのか、という疑問です。
この疑問については私なりの結論に至ったので、それが正しいかどうかを問う意味も込めてここで説明してみることにしましょう。
まず、一般化座標の自由度を f とすると一般化座標  \vec{q} は f 次元ベクトルです。
 {\displaystyle
\vec{q}=\left(q_1, q_2, \ldots, q_f\right)^T
}
これを用いてラグランジアン \vec{q} \dot{\vec{q}} の関数として表記されています。
 {\displaystyle
L=L(\vec{q},\dot{\vec{q}})
}
この表記が既に変な感じなわけです。 \dot{\vec{q}}=d\vec{q}/dt という従属関係があるにも関わらず、明らかに  \dot{\vec{q}} を独立変数として扱った表記になっています。独立なのか従属なのはハッキリしろと言いたくなるわけです。
私の結論としては、ここは独立変数として考えるべきです。ですから厳密には  \dot{\vec{q}} と表記するのは正しくなくて、本来は独立した f 次元ベクトルの変数  \vec{r} を用いて
 {\displaystyle
L=L(\vec{q},{\vec{r}})
}
と表記するべきだと思うわけです。つまりラグランジアンLは、 \dot{\vec{q}} \dot{\vec{r}} が張る 2f 次元空間に定義された実数値関数と捉えるべきではないでしょうか。そしてラグランジュ方程式は次のような2本の式の連立方程式として表記されるのが正しい姿ではないでしょうか。

  •  {\displaystyle \frac{d}{dt}\left(\frac{\partial L}{\partial \vec{r}}\right)-\frac{\partial L}{\partial \vec{q}}=\vec{0}}
  •  {\displaystyle \vec{r}=\frac{d\vec{q}}{dt}}

ラグランジュ方程式の考え方やメリット

これは私もまだ漠然としか分かりませんが、「こういうことかな?」と思ったことを書いておきます。
まず、ニュートン運動方程式と比べて運動の捉え方が大きく変わります。例えば2粒子系の力学系を考えたとき、通常のニュートン運動方程式では3次元空間上を飛び回る2つの粒子として運動を捉えることになります。しかしラグランジュ方程式では、2粒子系の自由度は6であるためラグランジアンLが定義される空間は12次元となり、この12次元空間中の一本の軌跡線として運動を捉えることになります。これはニュートン運動方程式では決して得られなかった視点です。12次元空間ですから物理的イメージも幾何的イメージも湧きにくい抽象的な捉え方ですが、代わりに数学的には多粒子系でも一本の方程式で表せるわけですからメリットがありそうな気がします。
これは私の個人的な感覚ですが…、ニュートン運動方程式は運動する粒子一つ一つに着目していますから、粒子の数が増えると着目する対象が沢山の点に分散してしまい系全体を俯瞰できないような気がします。木を見て森を見ず、という感じでしょうか。これに対してラグランジアンは多粒子系の系全体を捉えた物理量と言えますから、系全体としての特性を俯瞰して捉えようとする雰囲気を感じます。
教科書の先の方を読むと変分原理でラグランジュ方程式を捉え直すことが出来ます。つまり作用積分の最小化問題として運動方程式を捉え直すことが出来ます。コンピュータによる数値計算の手法として最小化問題を解くアプローチは色々ありますから、そういった手法を利用して運動方程式を解くことが出来るのかもしれません。つまり、運動方程式を別の形で定式化出来れば別の数値計算手法が利用可能になるメリットがある、といえるかもしれません。(この辺は完全に私の想像にすぎないので、大外ししているかもしれません)

ラグランジュ方程式の座標変換

自分で手を動かして計算してみたところ、ベクトルの表記を使うと教科書よりもシンプルに計算できるように思ったので、その計算をここ記しておきます。
教科書では次のような一般化座標の座標変換について書かれています。
 {\displaystyle
\vec{q}=\vec{q}(Q_1, Q_2, \ldots, Q_f)=\vec{q}(\vec{Q})
} ... 式(★)
しかしここでは、まずはより一般化した座標変換を考えて、後から上記の座標変換に戻ってくることにしましょう。つまり次のような一般的な座標変換を考えていくことにします。
 {\displaystyle
\vec{q}=\vec{q}(\vec{Q},\dot{\vec{Q}})
}
一般化座標の時間微分 \dot{\vec{q}} も同様に \vec{Q}\dot{\vec{Q}} の関数となります。
 {\displaystyle
\dot{\vec{q}}=\dot{\vec{q}}(\vec{Q},\dot{\vec{Q}})
}
これら2つをまとめて微分すると次のようになります。
 {\displaystyle
\left(\begin{array}{c}d\vec{q} \\ d\dot{\vec{q}}\end{array}\right)=
\left[\begin{array}{cc}
\frac{\partial \vec{q}}{\partial \vec{Q}} & \frac{\partial \vec{q}}{\partial \dot{\vec{Q}}} \\
\frac{\partial \dot{\vec{q}}}{\partial \vec{Q}} & \frac{\partial \dot{\vec{q}}}{\partial \dot{\vec{Q}}} \\
\end{array}\right]
\left(\begin{array}{c}d\vec{Q} \\ d\dot{\vec{Q}}\end{array}\right)
=J\left(\begin{array}{c}d\vec{Q} \\ d\dot{\vec{Q}}\end{array}\right)
}
ここで右辺に登場した座標変換行列を J とおきました。この行列は一般にヤコビ行列と呼ばれているものです。
このヤコビ行列を用いて、任意の実数値関数 f=f(\vec{q},\dot{\vec{q}})=f(\vec{Q},\dot{\vec{Q}})微分を考えていきましょう。次のような式変形が出来ます。
 {\displaystyle
df=\frac{\partial f}{\partial \vec{q}}\cdot d\vec{q}+\frac{\partial f}{\partial \dot{\vec{q}}}\cdot d\dot{\vec{q}} \\
=\left(\begin{array}{cc}d\vec{q}^T & d\dot{\vec{q}}^T\end{array}\right)
\left(\begin{array}{c}\frac{\partial f}{\partial \vec{q}} \\ \frac{\partial f}{\partial \dot{\vec{q}}}\end{array}\right)
=\left(\begin{array}{cc}d\vec{Q}^T & d\dot{\vec{Q}}^T\end{array}\right)
J^T\left(\begin{array}{c}\frac{\partial f}{\partial \vec{q}} \\ \frac{\partial f}{\partial \dot{\vec{q}}}\end{array}\right)
}
従って次の関係が得られます。
 {\displaystyle
\left(\begin{array}{c}\frac{\partial}{\partial \vec{Q}} \\ \frac{\partial}{\partial \dot{\vec{Q}}}\end{array}\right)=J^T\left(\begin{array}{c}\frac{\partial}{\partial \vec{q}} \\ \frac{\partial}{\partial \dot{\vec{q}}}\end{array}\right)
}
さて、ここで最初の座標変換式(★)に戻ってみましょう。この変換式では\vec{q}\vec{Q}のみの関数であり、\dot{\vec{Q}}の関数にはなっていません。従って次式が成り立ちます。
 {\displaystyle
\frac{\partial \vec{q}}{\partial \dot{\vec{Q}}}=0
}
また、この\vec{q}を時間微分して\dot{\vec{q}}を計算すると
 {\displaystyle
\dot{\vec{q}}=\left[\frac{\partial\vec{q}}{\partial\vec{Q}}\right]\dot{\vec{Q}}
}
が得られ、この両辺を \dot{\vec{Q}}微分することにより次式が得られます。
 {\displaystyle
\left[\frac{\partial\dot{\vec{q}}}{\partial\dot{\vec{Q}}}\right]=\left[\frac{\partial\vec{q}}{\partial\vec{Q}}\right]
}
これらを用いるとヤコビ行列 J は次のように書き換えられます。
 {\displaystyle
J=\left[\begin{array}{cc}
\frac{\partial \vec{q}}{\partial \vec{Q}} & 0 \\
\frac{\partial \dot{\vec{q}}}{\partial \vec{Q}} & \frac{\partial \vec{q}}{\partial \vec{Q}} \\
\end{array}\right]
}
さあ、これらの結果を用いていよいよ、新しい座標系 \vec{Q}でもラグランジュ方程式が成立するかどうかを調べていくことにしましょう。準備として次のような作用素を定義しておきます。
 {\displaystyle
\Phi_q=\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial}{\partial \dot{\vec{q}}}\right)-\frac{\partial}{\partial \vec{q}}
}
これを用いるとラグランジュ方程式は次のように書けます。
 {\displaystyle \Phi_qL=\vec{0} }
同様にして、新しい座標系 \vec{Q} では作用素は次のように定義されます。
 {\displaystyle
\Phi_Q=\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial}{\partial \dot{\vec{Q}}}\right)-\frac{\partial}{\partial \vec{Q}}
}
この作用素を、上で求めたヤコビ行列による変換式を用いて式変形していくことにしましょう。まずは第一項に注目すると、
 {\displaystyle
\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial}{\partial \dot{\vec{Q}}}\right)=
\frac{d}{dt}\left(\left[\frac{\partial \vec{q}}{\partial \vec{Q}}\right]^T\frac{\partial}{\partial \dot{\vec{q}}}\right)=
\left[\frac{\partial \dot{\vec{q}}}{\partial \vec{Q}}\right]^T\frac{\partial}{\partial \dot{\vec{q}}}+
\left[\frac{\partial \vec{q}}{\partial \vec{Q}}\right]^T\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial}{\partial \dot{\vec{q}}}\right)
}
第二項は
 {\displaystyle
\frac{\partial}{\partial \vec{Q}}=
\left[\frac{\partial\vec{q}}{\partial\vec{Q}}\right]^T\frac{\partial}{\partial\vec{q}}+
\left[\frac{\partial\dot{\vec{q}}}{\partial\vec{Q}}\right]^T\frac{\partial}{\partial\dot{\vec{q}}}
}
従って作用素は次のようになります。
 {\displaystyle
\Phi_Q=\left[\frac{\partial\vec{q}}{\partial\vec{Q}}\right]^T\left(\frac{d}{dt}\left(\frac{\partial}{\partial\dot{\vec{q}}}\right)-\frac{\partial}{\partial\vec{q}}\right)=
\left[\frac{\partial\vec{q}}{\partial\vec{Q}}\right]^T\Phi_q
}
こうして \Phi_q\Phi_Q の間にはとてもシンプルな変換式があることが分かりました。これによりラグランジュ方程式 \Phi_qL=\vec{0} が成り立てば新しい座標系でも方程式 \Phi_QL=\vec{0} が成り立つことが一目瞭然に分かります。

最後に

ブログで数式たくさん書くのツライ…(´・ω・`)