かたちづくり

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マックスウェル方程式を整理してみた(自分用メモ)

最近、この本で電磁気学を復習しました。

電磁気学の考え方 (物理の考え方 2)

電磁気学の考え方 (物理の考え方 2)

軽妙な語り口でするすると頭に入ってくる感じで、大変分かりやすい素晴らしい本でした。おすすめ。

さて、本書では後半に電磁気学の集大成たるマックスウェル方程式に辿り着くわけですが、そのマックスウェル方程式を自分なりにゴニョゴニョいじってみたので、自分用のメモ書きとしてここに記すものであります。

マックスウェル方程式

まずは教科書に載っていたマックスウェル方程式をそのまま転記。
 \mathrm{div} \vec{B} = 0 \qquad \mathrm{rot} \vec{E} + \frac{\partial\vec{B}}{\partial t} = \vec{0}
 \mathrm{div} \vec{D} = \rho \qquad \mathrm{rot} \vec{H} - \frac{\partial\vec{D}}{\partial t} = \vec{i}
ただし
 \vec{D} = \epsilon_0\vec{E}, \qquad \vec{B} = \mu_0\vec{H}

それぞれの記号の意味は下記の通り。

 \epsilon_0 誘電率
 \mu_0 透磁率
 \vec{E} 電場の強さ
 \vec{D} 電束密度
 \vec{B} 磁束密度
 \vec{H} 磁場の強さ
 \vec{i} 電流密度

ちなみにローレンツ力は次式。
 \vec{F} = e\left(\vec{E} + \vec{v}\times\vec{B}\right)
ただし  e は荷電粒子の電荷 \vec{v} は荷電粒子の運動速度。

さて、美しいと言われているマックスウェル方程式ですが。美しいような、そうでもないような、と言いますか。誘電率やら透磁率やら色々出てきて割とややこしいので、もうちっと整理できんのかなぁ、というのが式変形の動機。

 \vec{E}, \vec{B} を消去

 \vec{E}=\vec{D}/\epsilon_0, \vec{B}=\mu_0\vec{H}, \vec{i}=\rho\vec{v} を用いてマックスウェル方程式を式変形する。

 \mathrm{div} \vec{H} = 0 \qquad \mathrm{rot} \vec{D} + \frac{1}{c^2}\frac{\partial\vec{H}}{\partial t} = \vec{0}
 \mathrm{div} \vec{D} = \rho \qquad \mathrm{rot} \vec{H} - \frac{\partial\vec{D}}{\partial t} = \rho\vec{v}

ただし  cは光速。

マックスウェル方程式から誘電率透磁率が消えて、ちょっとスッキリ。代わりに光速 c が増えましたが、こちらのほうが割と本質的な物理定数だと思うので、こっちの表記のほうがいいんじゃないかな、と。

ミンコフスキー空間を意識して式変形

次の記号を導入します。
 \tau = ct, \quad \vec{\tilde{H}}=\frac{\vec{H}}{c}, \quad \vec{\tilde{v}}=\frac{\vec{v}}{c}
するとマックスウェル方程式は次のように変形できます。

 \mathrm{div} \vec{\tilde{H}} = 0 \qquad \mathrm{rot} \vec{D} + \frac{\partial\vec{\tilde{H}}}{\partial\tau} = \vec{0}
 \mathrm{div} \vec{D} = \rho \qquad \mathrm{rot} \vec{\tilde{H}} - \frac{\partial\vec{D}}{\partial\tau} = \rho\vec{\tilde{v}}

おー。光速 c も式から消えました。電場と磁場の関係式の対称性がよりくっきりと見えるようになったと感じます。
さらに、次元解析すると単位もシンプルになっていることが分かります。

  • 電場  \vec{D} と磁場  \vec{\tilde{H}} の単位は共に  [C/m^2]
  • 4つの微分方程式の単位はすべて  [C/m^3]
  • 時間軸が  \tau = ct により長さ次元に置き換わっているため、式に時間の次元が出てこない。

微分形式の導入

ベクトル解析は微分形式を用いるともっとシンプルに書けます。というわけで微分形式を導入。電場と磁場を次のように微分形式で表します。

 D = D_x dy\wedge dz + D_y dz \wedge dx + D_z dx \wedge dy
 H = \left(\tilde{H_x} dx + \tilde{H_y} dy + \tilde{H_z} dz\right)\wedge d\tau

ここで表記を簡潔にするために次の記号を導入します。


\vec{\sigma^1}=\left(\begin{array}{c} dx \\ dy \\ dz \end{array}\right), \quad
\vec{\sigma^2}=\left(\begin{array}{c} dy \wedge dz \\ dz \wedge dx \\ dx \wedge dy \end{array}\right), \quad
\sigma^3 = dx \wedge dy \wedge dz

するとD, Hは次のように書けます。

 D = \vec{D}\cdot\vec{\sigma^2}, \quad H = \vec{\tilde{H}}\cdot\vec{\sigma^1}\wedge d\tau

これらにホッジ作用素を適用すると次のようになります。

 *D = -\vec{D}\cdot\vec{\sigma^1}\wedge d\tau, \quad *H = \vec{\tilde{H}}\cdot\vec{\sigma^2}

 *D で符号がマイナスになるのは、ミンコフスキー空間の計量が時間軸で -1 になるため。(たぶんこれでいいと思うんだけど、あんまり自信はない)

微分形式によるマックスウェル方程式

天下り的ですが、次の微分形式を作ります。

 F = -*D + *H = \vec{D}\cdot\vec{\sigma^1}\wedge d\tau + \vec{\tilde{H}}\cdot\vec{\sigma^2}

これを全微分してみます。


\begin{array}{ccl}
dF &=& \mathrm{rot}\vec{D}\cdot\vec{\sigma^2}\wedge d\tau + \left( \mathrm{div}\vec{\tilde{H}}\sigma^3 + \frac{\partial\vec{\tilde{H}}}{\partial \tau}\cdot\vec{\sigma^2}\wedge d\tau \right) \\
&=& \left(\mathrm{rot}\vec{D} + \frac{\partial\vec{\tilde{H}}}{\partial\tau}\right)\cdot\vec{\sigma^2}\wedge d\tau + \mathrm{div}\vec{\tilde{H}}\sigma^3
\end{array}

以上から、マックスウェル方程式の4つの式のうちの2つが、次のシンプルな1本の式で表せてしまうことが分かります。

 dF = 0

残りの二つの式も微分形式で表せると素敵ですね。そのためにFにホッジ作用素を適用してみます。

 *F = D - H = \vec{D}\cdot\vec{\sigma^2} + \vec{\tilde{H}}\cdot\vec{\sigma^1}\wedge d\tau

これを全微分してみます。


\begin{array}{ccl}
d*F &=& \left( \mathrm{div}\vec{D}\sigma^3 + \frac{\partial\vec{D}}{\partial \tau}\cdot\vec{\sigma^2}\wedge d\tau \right) - \mathrm{rot}\vec{\tilde{H}}\cdot\vec{\sigma^2}\wedge d\tau \\
&=& \mathrm{div}\vec{D}\sigma^3 - \left(\mathrm{rot}\vec{\tilde{H}} - \frac{\partial\vec{D}}{\partial \tau} \right)\cdot\vec{\sigma^2}\wedge d\tau
\end{array}

これをマックスウェル方程式と比べると、残りの2式は次のように表せることが分かります。

 d*F = \rho\left(\sigma^3 - \vec{\tilde{v}}\cdot\vec{\sigma^2}\wedge d\tau\right)

以上でマックスウェル方程式を微分形式でシンプルに書き表すことに成功しました。

電磁場ポテンシャル

ここで「ポアンカレ補題(の逆)」ってヤツを使います。

ポアンカレ補題(の逆):
k次微分形式ωが
 d\omega = 0
を満たすとする(このようなωを「閉形式」という)。このとき、
 \omega = d\eta
を満たすk-1次形式ηが存在する(このようなωを「完全形式」という)。

つまり「閉形式ならば完全形式である」というのがこの定理の主張。
えっと、うろ覚えなので怪しいですが、確か「完全形式ならば閉形式である」が「ポアンカレ補題」で、その逆の「閉形式ならば完全形式である」が「ポアンカレ補題の逆」だったはず。で、前者は常に真だが後者(逆)は必ずしも真ではなかったはず。ですが、逆が成立するには何か条件があって、ユークリッド空間ではその条件を満たしているから逆も成立するんじゃなかったかな。でもここではミンコフスキー空間を扱ってますからユークリッド空間じゃないですね。でもミンコフスキー空間でもポアンカレ補題の逆は成り立つってことなんでしょう、たぶん。あー、理解が怪しい…ゴニョゴニョ。

こまけーことはいいんだよ!(逆切れ)ということで、この定理を適用します。先ほどマックスウェル方程式では次式が成立すると書きました。

 dF = 0

ということは、この定理によれば F は次のように書けるってことです。

 F = d\Phi, \quad \Phi は1次微分形式

そこで  \Phi を次のように置きましょう。


\begin{array}{ccl}
\Phi &=& A_xdx + A_ydy + A_zdz - \phi d\tau \\
&=& \vec{A}\cdot\vec{\sigma^1} - \phi d\tau
\end{array}

これを電磁場ポテンシャルと呼びます。
これをマックスウェル方程式の次の式に代入してみます。

 d*F = \rho\left(\sigma^3 - \vec{\tilde{v}}\cdot\vec{\sigma^2}\wedge d\tau\right)

すると次式が得られます。

 d*d\Phi = \rho\left(\sigma^3 - \vec{\tilde{v}}\cdot\vec{\sigma^2}\wedge d\tau\right)

おお、なんということでしょう、マックスウェル方程式が一つの式で表せてしまいました。

※ 計算間違いに気づいた方は教えてください。あんまり自信ないです。特に符号とか怪しい。