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池袋物理学勉強会 演習問題 2-4 #ikeph

明日の池袋物理学勉強会では演習問題2-4が私の担当となっていますが、残念ながら都合により参加できませんので演習問題の解答のみブログで参加します。

演習問題2
4. 剛体の運動方程式を、変分原理から導け。

ああ、なんてシンプルな問題文なのでしょう。こういう時はいきなり巻末の解答を見ます(え?

演習問題略解
重心の座標を  x_G、慣性テンソル
 {\displaystyle
I_G=\int d^3 x \left(r^2\delta_{ij} - x_ix_j\right)\rho
}
とすると、
 {\displaystyle
T=\frac{1}{2}M \dot{x}_G^2+\frac{1}{2}\sum_{i,j}I_{i,j}\omega_i\omega_j
}
ただし、 \omega は重心の周りの角速度。外力がなければ, L = T である。

これは解答というよりヒントという感じですね。

問題のポイント

剛体について

質点ではなくて剛体なので、物体には大きさがあることを考慮しなくてはなりません。すなわち、物体の回転運動も考慮に入れる必要が生じます。ですから「略解」にも回転運動による運動エネルギーの項(慣性テンソルが含まれる項)が含まれています。

外力について

問題文には剛体に働く外力に関する記述が全くないのですが、ヒントに「外力がなければ L = T」と書いてあることですし、ここでは簡単のため外力はないものとして解きます。

導出までのストーリー

  1. 剛体の運動エネルギーの式を立てる(略解に記載済み)
  2. 運動エネルギーの作用積分の式を立てる
  3. 変分法により作用積分が最少となる条件を求める

運動方程式の導出

ここでは略解に記載されている運動エネルギーの式をそのまま用いて、変分法により運動方程式を導きます。
剛体の回転状態を回転ベクトル  \vec{\theta}=(\theta_1, \theta_2, \theta_3) で表し、その時間微分が角速度ベクトルに一致するものとします。
 {\displaystyle
\dot{\vec{\theta}}=\vec{\omega}
}
これを用いて、一般化座標  \vec{q} を次のように定めます。
 {\displaystyle
\vec{q}=\left(\vec{x_G}, \vec{\theta}\right)=\left(x_1, x_2, x_3, \theta_1, \theta_2, \theta_3\right)
}
すると作用積分は次式となります。
 {\displaystyle
I=\int T(\vec{q}, \dot{\vec{q}}) dt = \int T(\vec{x_G}, \vec{\theta}, \dot{\vec{x_G}}, \dot{\vec{\theta}}) dt
}
「ヒント」を見ると運動エネルギーには  \vec{x_G} \vec{\theta} の項は含まれていませんので、作用積分の式は次のように簡略化できます。
 {\displaystyle
I=\int T(\dot{\vec{q}}) dt = \int T(\dot{\vec{x_G}}, \dot{\vec{\theta}}) dt
}
ここで次のような摂動を考え
 {\displaystyle
x_G \rightarrow x_G + \delta x
}
 {\displaystyle
\theta \rightarrow \theta + \delta\theta
}
作用積分の変分を計算します。
 {\displaystyle
\delta I = \int T(\dot{x_G} + \delta\dot{x}, \dot{\theta} + \delta\dot{\theta}) - T(\dot{x_G}, \dot{\theta}) dt
= \int \left(\frac{\partial T}{\partial \dot{x_G}}\cdot\delta\dot{x} + \frac{\partial T}{\partial \dot{\theta}}\cdot\delta\dot{\theta}\right) dt
}
運動エネルギーの式を代入すると、
 {\displaystyle
\delta I = \int \left(M\dot{x_G}\cdot\delta\dot{x_G} + I\dot{\theta}\cdot\delta\dot{\theta}\right)dt
}
部分積分を用いると、
 {\displaystyle
\delta I = -\int \left(M\ddot{x_G}\cdot\delta x_G + I\ddot{\theta}\cdot\delta\theta\right)dt
}
\delta I = 0 と置くことにより、運動方程式は次式となる。
 {\displaystyle
M\ddot{x_G}=0, I\ddot{\theta}=0
}

剛体の運動エネルギーについて

上では略解の運動エネルギーの式を所与のものとして使いましたが、ここでは運動エネルギーの式の導出を行ってみます。解析力学とはあまり関係はありませんが…。
剛体の運動エネルギー  T は、並進運動による運動エネルギー  T_1 と回転運動による運動エネルギー  T_2 に分解できます。
 {\displaystyle
T = T_1 + T_2
}
並進運動のエネルギーは簡単です。
 {\displaystyle
T_1 = \frac{1}{2}M \dot{x}_G^2
}
ただし  x_G は重心位置、 M は剛体全体の質量です。
問題は回転運動による運動エネルギーです。これを求めるために、まず角速度ベクトルについておさらいしておきます(←自分が忘れてた)。次のような角速度ベクトルを考えます。
 {\displaystyle
\vec{\omega}=\left(\begin{array}{c} \omega_x \\ \omega_y \\ \omega_z \end{array}\right)
}
これが表す回転運動とはすなわち、 \vec{\omega} の方向を回転軸として、毎秒  ||\vec{\omega}|| = \sqrt{\omega_x^2+\omega_y^2+\omega_z^2} [rad] の速さで回転する運動です。これを用いて、重心位置からの相対座標  \vec{r} にある微小要素の運動エネルギーを求めます(下図参照)。
f:id:u_1roh:20140930211248p:plain
微小要素の速度 \vec{v} は次式で求まります。
 {\displaystyle
\vec{v}=\vec{\omega} \times \vec{r} = \left(\begin{array}{ccc} 0 & r_3 & -r_2 \\ -r_3 & 0 & r_1 \\ r_2 & -r_1 & 0 \end{array}\right)\left(\begin{array}{c}\omega_1 \\ \omega_2 \\ \omega_3 \end{array}\right)
}
従って微小要素の運動エネルギーは
 {\displaystyle
dT_2 = \frac{1}{2}\rho\left||\vec{v}\right||^2 dxdydz = \frac{1}{2}\rho\vec{\omega}^T\left(\begin{array}{ccc}r_3^2+r_2^2 & -r_1r_2 & -r_1r_3 \\ -r_1r_2 & r_3^2+r_1^2 & -r_2r_3 \\ -r_1r_3 & -r_2r_3 & r_1^2+r_2^2 \end{array}\right)\vec{\omega} dxdydz
}
 {\displaystyle
= \frac{1}{2}\rho\vec{\omega}^T\left\{(r_1^2+r_2^2+r_3^2)E - \left(\begin{array}{c}r_1 \\ r_2 \\ r_3\end{array}\right)\left(\begin{array}{ccc}r_1 & r_2 & r_3\end{array}\right)\right\}\vec{\omega} dxdydz
}
(※ E は単位行列
剛体全体の回転運動によるエネルギーは、上式を剛体全体にわたって積分すれば得られます。
 {\displaystyle
T_2 = \int dT_2 = \frac{1}{2}\vec{\omega}^T I \vec{\omega}
}
ただし、慣性テンソル
 {\displaystyle
I = \int \rho\left\{(r_1^2+r_2^2+r_3^2)E - \left(\begin{array}{c}r_1 \\ r_2 \\ r_3\end{array}\right)\left(\begin{array}{ccc}r_1 & r_2 & r_3\end{array}\right)\right\} dxdydz
}

感想

慣性テンソル懐かしい…。学生の時に工業力学で習ったなぁ…。

修正しました(2014-10-01 15:17)

@gm3d2 さんに幾つかミスをご指摘頂いて修正しました。ありがとうございました。